ジョン・F・ドノヴァンの死と生

この世界はいろんな悪意と脅威にみちていて、ときどき他人のことも自分のこともわからなくなる。SNSに書かれる内容は信用できないのにあっという間に広まるし、誰が言ったかも分からない言葉であふれ噂には尾ひれがついていつのまにか収拾がつかなくなる。その手引きをしているのは自分自身かもしれないという事実を、SNSを扱うわたしたちは気にとめることができているのだろうか。

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アメリカの人気俳優、ジョン・F・ドノヴァンが亡くなってから10年が経った。若手俳優のルパート・ターナーはドノヴァンと交流していたときの記憶を不意に思い出す。11歳の頃、ターナーはドノヴァンと手紙のやり取りを重ねていたのだ。
この映画は監督自身が8歳のころ、タイタニックに出演していたディカプリオにファンレターを送った思い出をヒントにした作品らしい。

映画は、ターナーの回想を通してドノヴァンの死の真相を描き出していく。スキャンダルの多かった彼の死について世間は様々な見解を繰り広げ騒ぎ立てた。おそらくきっと、あることもないことも。そんななかで、ターナーだけが、ドノヴァンの本当の姿を知っていたのかもしれない。

作中、ドノヴァンが、「俺の人生も秘密も知らないくせに!」と言って暴れるシーンがある。
ドノヴァンにとっても、日本で亡くなったあの人気俳優にとっても。本当の意味で自分のことを知ろうとしないメディアよりも、たったひとり、わかってくれる誰かがいれば、それだけで。それだけが、救いだったろのだろうな。

すべてを理解しあえる人たちなんてどこにもいないのかもしれない。あなたとわたしはちがう人間で、あなたとほかのだれかもちがう人間なのだから、ちがう心をもった人たちなのだから。ひとみのおくや、つめのさき、ほのあかるい頬にこめられたあなたのかけらを、わたしは、わたしのいちぶにすることはできない。

それでもきっと、この世界のどこかに、いる。かたわれにであったような感覚になるその人と、きっといつか、おなじねむりのなかにつく日がおとずれる。
そんな未来を信じてやまない。

ターナーとドノヴァンが実際に会うことはなく、やりとりはあくまで手紙だけ。絆があったのかなんて正直信じ難いけれど、ポスターに書かれた言葉が、やはりふたりの間にあった、「かけがえのない何か」に思いを馳せさせる。

「僕を知るのは、世界にただ一人。君だけーー」
「君は僕のすべてなんだ。」